本研究は,実験動物を用いて運動ニューロンに形態的な変化を生じさせるのに必要なトレーニング条件を確立することである.平成10年度では,遅筋を支配する運動ニューロンの形態変化を引き起こすランニングトレーニング条件は速度が30m/分,時間が60分/日必要であることが示された.平成11年度では,速筋を支配する運動ニューロンの細胞体サイズに及ぼすランニングトレーニング強度の影響を検討した.また,同時に運動ニューロンの酸化系酵素活性についても検討を加えた.4週齢の雌性ラットをコントロール群とトレーニング群に分類した.トレーニング群はさらにランニング速度が30m/分(T30)と50m/分(T50)のグループに分け,トレッドミルを用いて10週間(60分/日,傾斜なし,頻度5日/週)にわたりランニングを負荷した.トレーニング終了後,速筋タイプの長指伸筋を支配する運動ニューロンを同定するため,筋に神経標識物質を注入し,24時間後に長指伸筋,脊髄腰膨大部を摘出,分析した.T30,T50ともに,長指伸筋には十分なトレーニング効果が認められた.一方,長指伸筋を支配する運動ニューロンの酸化系酵素活性,細胞体サイズは,ともにトレーニングにより変化せず,トレーニング強度にも影響されなかった.これらの結果から,速筋を支配する運動ニューロンのトレーニングによる形態変化は起こりにくいことが示唆される.