本研究では,特定の筋を支配する運動神経細胞を逆行性に同定することによって,運動による神経栄養因子のシグナル伝達経路を単一運動神経細胞レベルで検討するとともに,支配筋によってシグナル伝達に相違が認められるかどうかについて検討することを目的とする.19年度は,運動条件の相違によって両筋でリン酸化の程度が異なるかどうかを支配筋別に確認することを目的とした.成熟したWistar系雄性ラットの左脚ヒラメ筋と右脚足底筋に逆行性神経標識物質であるNuclear Yellow(2%濃度)を10〜20μl注入し,約24時間後に乳酸性作業閾値以下のスピード(10m/min)と乳酸性作業閾値以上のスピード(25m/min)でランニングを30分間実施した.終了後に断頭屠殺し,脊髄を摘出後,厚さ12μmの連続凍結切片を作製し,蛍光顕微鏡により運動神経細胞を同定した.切片にはTrkB,p-Trk抗体による免疫染色を施した.その結果、ヒラメ筋,足底筋の支配運動神経細胞ともにTrkB,p-Trkの染色反応が認められ,運動によるTrkBのリン酸化が確認された.また,ヒラメ筋支配運動神経細胞では運動強度による染色反応の相違がほとんど認められず,一方,足底筋支配運動神経細胞では運動強度の増加とともに染色反応が増加する傾向にあった.これらの結果から,両筋でリン酸化の程度が異なるとともに,さらにリン酸化の程度が運動強...