目的
近年、国際保健協力において栄養が注目を浴びている。しかし、日本では地球規模の栄養課題に着目したアプローチや方法論は十分に検討されてきていない。その理由のひとつとして、栄養課題や取組がWHO、FAO、UNICEF等の各機関の一部に位置づけられおり、全体像が見えにくいことがあげられる。そこで、本研究では、各国際機関が公表した栄養政策ガイドライン・基準をレビューし、国際機関の栄養分野の動向を検討することを目的とした。
方法
WHO、FAO、UNICEFのウエブサイトにおいて1990年から2015年までに公表されている政策ガイドライン、テクニカルレポート、年次報告書等をレビューし、そのうち栄養問題およびその解決に直接的に関与すると考えられるものを抽出した。それらの目的・内容を確認した後、①食・栄養政策の枠組、②食事・栄養素等摂取基準、③情報システムに関するものに分類し、全てのガイドライン等について、分類毎、年代順に整理した表を作成した。その表を用いて栄養分野の取組を把握し、継時的な動向を考察した。
結果
分類した結果、①食・栄養政策の枠組22、②食事・栄養素等摂取基準14、③情報システムに関するもの5件を確認した。1990年代には、重度の低栄養にある子どもや妊産婦死亡率の低下、エネルギー・たんぱく質・ビタミンA等の不足栄養素摂取の改善、食物ベースによるフードセキュリティの達成のためのガイドライン策定および子どものアセスメント・評価方法の標準化のためのツールが開発されていた。2000年代は、栄養不良の二重負荷(栄養不足と栄養過多)の対応、母乳養育の重要性、食料システムと栄養との関連を考慮した取組について、2010年以降には、持続可能な開発における栄養課題、生活習慣病対策、栄養格差縮小の政策に基づいた実践の方法論について提言・報告されていた。また、1990年代には、微量栄養素情報システム、2000年代には、食料不足と低栄養の測定・アセスメントツールとマッピングシステム、2010年以降には、栄養アクション実践に関する情報システムが開発されていた。
結論
栄養分野の政策ガイドライン、テクニカルレポート、報告書には、①食・栄養政策の枠組開発、②食事・栄養素等摂取基準、③情報システムの3つに分類できた。継時的な動向として、1990年代には栄養不足、2000年以降は栄養不良の二重負荷、2010年以降には、栄養格差の縮小、生活習慣病対策にむけた食料システムと栄養改善に関する政策立案と実践についてのガイドライン策定および提言・報告が中心であることが明らかになった。