維持血液透析患者(HD患者)における,たんぱく質・エネルギー消費状態(protein-energy wasting:PEW)は,重要な栄養問題のひとつである.PEWの予防や治療には,適切な栄養素摂取量の評価を実施することが必要である.本研究では,HD患者の栄養素摂取量を横断的に調査し,健常者との比較,慢性腎臓病の食事療法基準値内で管理できている割合の評価およびエネルギーとたんぱく質の摂取量によるカテゴリー化により,PEWの高リスク者の実態を把握することを試みた.対象は,佐賀県と兵庫県の医療機関に通院中の外来HD患者160名,および佐賀県内在住の健常者80例である.栄養調査の方法は,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を使用した.その結果,健常者との比較では,解析対象であるすべての栄養素において,HD患者が有意に低値であったが,脂質エネルギー比はHD群が健常者よりも有意に高値であった.HD患者がCKD食事療法基準値の範囲内である割合は,エネルギー45.6%,たんぱく質16.2%,食塩32.5%,水分18.8%,カリウム63.1%,リン80.6%であり,大多数の患者で栄養素の不適切摂取を呈していた.さらに,栄養素摂取量によるカテゴリー化では,エネルギーかつたんぱく質が正常であった割合が13.7%と低値である一方,エネルギーかつたんぱく質が不足した割合は40.0%,たんぱく質のみが不足した割合は20.6%であった.以上より,HD患者にはPEWの高リスク者が高頻度に存在したことから,栄養管理においては,適切に栄養素摂取量を評価し,教育効果の高い栄養食事指導の実施が必要と考えられた.