新興感染症の感染力の強さを推定することは公衆衛生的な見地から重要である。特に再生産数Rの推定は伝搬力を判断する上で非常に重要な指標である。2009年に新型インフルエンザ(A/H1N1)の世界的流行が発生した。日本でも海外からの感染者の流入が相次ぎ、感染が拡大した。本研究では流行初期に茨城県で報告された全患者の感染経過を精査した。この中から県内での再感染と思われるデータを抽出し、累積患者数の時間経過を元に内的増加率 r = 0.31を推定した。更に感染の相互関係が推定できる事例の世代時間GIを推定した。これらのデータから疫学的評価の基礎的指標となる再生産数Rを推定した。茨城県の流行初期の再生産数はR = 1.5と推定され、今回のインフルエンザ流行の国内での積極的介入が行われなかった他の報告例よりも低い値となった。感染者の多くは20歳未満の就学者であることから、マスク着用の指導や学校閉鎖などの複数の対策の効果が現れたといえる。