本研究では、近年の家計における金融資産・負債行動の変化を検証し、その間に顕著だった保有資産の世代間格差に注目して、将来収入への保障という特性をもつ保険資産への需要の影響を分析した。個人年金商品など私的年金である。そのシェアが伸びた理由は、次のように考えられる。超低金利、少子高齢化という状況の下では、公的年金の所得代替率が低下すると予想される。そうした状況のなかで、老後の資産を確保するため家計は金融資産(商品)に対して収益性と保障性を求めている。これまで述べてきた特性アプローチによる分析結果は、そうした状況を合理的に説明できるものといえる。30代、40代の年齢層でみられる保障性資産のシェアの低下は、保険への需要は代替的な金融資産である年金に需要が移る一方、補完的な金融資産である定期性預金とともにシェアを低下させていると考えられる。保険への需要は年金へもシフトしたと考えられるので、30代、40代の年齢層以外の年齢層では保障性資産全体としてのシェアの低下は緩和されていると考えられる。必ずしも安全性(定期性預金)から収益性(株式、投資信託)へと特性(あるいはその特性をもつ金融資産)への需要が変化するのではなく、安全資産の需要は将来収入への保障という特性をもつ保険資産への需要の変化として反映されているのではないかと考えられる。流動性資産のシェアの上昇も考えると、手元流動性の確保ということから類推して、将来の不確実性への不安と将来の必要資金の不足への不安という両方の不安が、金融資産選択行動に反映されているのではないかと考えられる。