絵の情報としては、主に図形と色彩の2つの要素が挙げられる。我々は以前、絵本等における色彩のみに着目し、絵本の色彩と内容に関して、相関の有無を調査した。この結果、色彩の情報である程度内容を把握している可能性を示唆した。しかし、実際に絵本等を読む(見る)場合には、同一画面内の視点移動やページを捲るという、色彩の時間変化の要素も加わる事も分かっており、今後の課題の一つであった。
従来から、この様な色彩の時間変化に関しては、赤一色の色彩を長時間見た後に、白一色の色彩を見ると、赤の心理補色である青緑色が見える等の継時(継続)対比等が知られている。しかし、この継時(継続)対比等の現象は、あくまで心理学的・生理学的な見地からの説明に過ぎない。また、色彩の時間変化と色彩感情に関しての研究はあまり存在せず、未解明な部分が多い。
そこで本論文では、絵本等における色彩の時間変化に伴う色彩感情の変化を実験する。具体的には、より客観的な実験をおこなう為、単一の色彩2種類を時間変化させ、被験者の色彩感情がどの様に変化するかを調査する。実験では、赤・緑・青・黄の4色を、色彩の提示時間を1・3・5秒の3段階に変化させて、合計36通りの色彩感情の調査をおこなった。実験の結果、緑・青・黄の3色では、従来の継時(継続)対比等の現象から説明可能な色彩感情が得られた。しかし、赤に関しては、従来の継時(継続)対比等の現象から説明出来ない色彩感情が得られ、色彩の時間変化と色彩感情の特殊な関係性が判明した。