絵画等の平面画像において、立体感を得る手法としては、近い所にある物体は大きく・遠い所にある物体は小さく描く、透視図法(線遠近法)が最も有名である。他にも、多くの立体感を得る為の手法があり、空気遠近法・消失遠近法等は、物体が遠くにある程、色彩は薄くボケが大きくなる手法として知られている。
カメラ・オブスクラ(Camera Obscura)が、美術の遠近法・透視画法の確立に大きな役割を果たした事からも、絵画における遠近法とカメラの関係は深い。カメラの世界では、従来からボケ(ピンボケ[Defocus]とは違う)が立体感に大きな影響を与えている事が知られている。また近年、ボケは英語でも“Bokeh”と呼ばれる様に、新しい映像表現として注目されている。
本論文では、近距離の被写体を対象としたカメラのボケ画像を用いて、空気遠近法・消失遠近法との関係や精度を、被験者を用いた実験により検証する。また、被写体の色彩を変化させる事により、色彩遠近法の効果も合わせて検証する。実験の結果、単純なボケ画像及び単一の色彩の場合、ボケの質や色彩に比べて、ボケの大きさ(空気遠近法・消失遠近法の効果)が被験者の遠近感に与える影響が大きい事が判明した。また、中学校における美術部員を対象としたアンケートの結果、各種遠近法やボケに関して、名称やその効果や内容・手法を多くの生徒が十分に理解していない事が分かった。