哺乳類で、遺伝子発現抑制に関与するとされる「DNAメチル化」は、発生の過程でそのパターンがゲノム上に確定されると、細胞分裂を介して安定に維持される。この安定な維持には、Dnmt1という酵素が必要であることが明らかにされている。しかしながら、試験管内で2本鎖DNAのうち片方の鎖をメチル化したDNA(ヘミメチル化DNA)をDnmt1の基質にして反応させると、100%の効率でメチル化しえないことが分かっている。そのため、ゲノム上のDNAメチル化を細胞分裂を超えて安定に維持するには、Dnmt1活性を促進する、または活性を安定化させる機構があると考えられていた。
数年前に、私は、核タンパク質であるヒストンH3がユビキチン化されるとDnmt1と結合し、Dnmt1の構造変化をひき起こして、Dnmt1の活性中心を開くことで、Dnmt1活性を促進することを報告しているがIshiyama, Suetakeら、Mol Cell,2017)、その促進機構は不明な点があった。
本年度は、私は、生化学的に、ユビキチン化ヒストンH3(H3Ub)が、Dnmt1の「DNAの上を滑って連続的にメチル化する能力」を亢進することを見出した(Mishima Suetakeら Genes to Cells, 2019)。さらに私は、これまでにDnmt1活性が、他分子の部分領域(Uhrf1のSRAドメイン)により促進されることを報告しているので(Berkyurek, Suetakeら, JBC, 2014 )、SRAとユビキチン化H3を同時添加することで、それらが相加的にDnmt1活性促進をすることも見出した(Mishima Suetakeら Genes to Cells, 2019)。
つまり、Dnmt1活性の新制御機構を見出し、DNAメチル化の安定維持機構の理解を深めることができた。