近年、塩基配列の変化では説明できないエピジェネティックな効果に起因するがんの発症例が注目されている。このエピジェネティック要因の多くが染色体DNAのメチル化異常に起因することがわかってきつつある。ゲノムDNAのメチル化状態がいかにして正常に保たれているのかを理解することが、発がん状態を理解する上で重要となる。DNAメチル化酵素の性質を明らかにすることによりDNAメチル化状態が乱れた結果発症したがんを正確に把握し、生体が備えている発がん防御機構を理解するのがこの研究である。
現在DNAメチルトランスフェラーゼは関連因子を含めて5種類が同定されている。組換型Dnmt1、Dnmt3a、Dnmt3b、Dnmt3Lを精製してその性質を調べ、以下のことを明らかにした。Dnmt1のN末端36kDaは独立な領域構造を持ち、非特異的なDNA結合活性をPCNA結合配列近くに持っている。Dnmt1のN末端領域はさまぎまな因子を結合する足場機能を担っていて、Dnmt1の存在時間、位置の制御に関わっていると推察される。Dnmt3aとDnmt3bのDNAメチル化活性は再構成ヌクレオソームを基質としたとき大きく異なり、Dnmt3bがヒストンに巻きついたDNAをメチル化できるのに対して、Dnmt3aはメチル化できない。このDnmt3aとDnmt3bの活性の違いはin vivoにおいて両酵素が異なるDNA領域をメチル化することを説明する上で重要な性質であると考えられる。Dnmt3Lはそれ自身でDNA結合能もDNAメチル化活性も持たないが、Dnmt3aとDnmt3bのDNAメチル化活性をDNAの配列にかかわらず促進する。Dnmt3Lは、これまでの予想とは異なりDnmt3aと,Dnmt3bを標的配列にガイドしているわけではないことが明かとなった。