哺乳類では着床期の胚体と生殖細胞でゲノム全体にわたりメチル化模様が大きく書きかえられる。ゲノムメチル化模様の形成にはDNAメチルトランスフェラーゼ(Dnmt)のDnmt3aとDnmt3bが寄与し、細胞系列特異的に形成されたメチル化模様は、複製過程でDnmt1により比較的安定に保持される。本研究ではゲノムDNAのメチル化模様の形成と維持機構を理解することを目指すが、今回各Dnmtの精製試料と特異抗体を用いて以下のような成果を得た。雄性生殖細胞で起きるゲノムワイドなメチル化にはDnmt3aのアイソフォームであるDnmt3a2が責任酵素であることを示す結果を得た。生殖細胞におけるメチル化にはメチル化活性をもたないDnmt3Lが必須であることが遺伝学的に示されているが、Dnmt3LのC末端側半分がDnmt3aやDnmt3bと直接結合することによってメチル化活性を促進していることがその分子基盤となっていることを示した。また、血球と精子の前駆細胞ではDnmt3bが高い発現を示し、分化段階が進むとDnmt3aがとって代わることを見出した。さらに、維持型酵素のDnmt1は基質である2本鎖DNA上の一方の鎖をスキャンして、ヘミメチル化CpGを順次メチル化していくこと、4〜5%という比較的高い率でメチル化を入れ損なうことを明かにした。DNAメチル化がどの様にして形成され維持されているのかについて、その分子基盤をさらに明らかにしていくことによって、がん細胞でどの段階に異常があるのかを浮き上がらせることになると期待できる。