企業間の戦略的提携は、1980年代より国際的な提携を含めて、様々な分野で進められてきたが、産学官民の連携の重要性が指摘される中で、企業と非営利セクターとの連携は必ずしも大きな成果をあげていない。本稿では、企業と非営利組織のセクターを超えた連携に関する現状と課題を分析し、企業が新興市場として注目する開発途上国を対象としながら、NGOや国連機関との連携による具体的な事例を提示した。そしてその中から、連携による新市場進出の可能性と課題を導出した。日本企業は、新たな市場への参入を模索しながらも、開発途上国での事業展開に困難を抱えており、非営利セクターと相互の専門性を補完することで、開発途上国への効果的なアプローチが期待できる。日本再生に向けて、従来とは異なる手法や担い手による市場の掘り起こしや付加価値の創造が期待されている中で、セクターを超えた連携が新たな可能性を生み出すと考えられる。国連による連携は、2000年の国連ミレニアム開発目標の設定に始まり、グローバル・コンパクトの枠組みが作られ、国連の専門機関も民間との連携プロジェクトに取り組んでいる。国連開発計画では、多くのステークホルダーを巻き込みながら、持続可能なビジネス育成を目指している。国連人間居住計画では、環境技術専門家会議を通じて、日本国内の自治体および中小企業のもつ導入可能な技術やノウハウを仲介し、開発途上国でのパイロット事業に繋げている。これらの発見事実から、連携の規模や成功事例は限られている上に、ペースが非常に遅いことが指摘できる。一方で、成果を残す連携からは、重要なファクターとして4点が抽出できる。第一に、準備段階として、連携に向けた意識改革と相互理解が求められること。第二に、連携のプラットフォームの構築。第三に、有効な市場参入の手法の選定。第四には、中核となる個人のコミットメントとリーダーシップとコーディネーション能力をもつ推進役の存在である。開発途上国で求められる技術や商品は、必ずしも最先端のレベルにあるものではなく、現地で広く受け入れられるものであるとすれば、中小企業が取り組んできた小回りがきき柔軟性のあるものが、むしろ適用しやすいとも考えられる。優れた技術を有しながらも、海外事業の展開など考えられなかった中小企業が、海外進出の足がかりを得る上で、非営利組織との連携により貴重な機会と経験を得ることになることにもなる。企業と非営利組織の連携が、新たな市場の掘り起こしや付加価値の創造に繋がることを期待したい。