近年日本では、精神科における非自発的入院の一形態である医療保護入院が2005年の約12万件から2015年の約18万件と相当な増加傾向であり、患者の自己決定や自由意志の尊重という観点からみて看過できない状況が生じている。本研究では、戦後日本の精神科入院における「家族同意にもとづく強制入院」を歴史的に考察するため、現行医療保護入院の制度的前史である精神衛生法下(1950-87)の同意入院についての研究を行う。
本研究では、第一に、精神病床・入院急増期である1960年代から80年代頃の同意入院についての実像を明らかにするために、当該時期の医療機関および行政機関作成の一次資料等を利用して、その運用事例を分析する。また、第二に、この同意入院は、これまでの応募者の研究により医療扶助の適用が多かったことが判明しているため、患者家族の経済的な困窮とどの程度関わりが深かったのかについて検証する。本研究を通じて、同意入院の実像を明らかにし、合わせて戦後日本の精神医療供給全体にもたらした歴史的意味について考察することで、先行研究の蓄積の少ない同意入院の基礎的研究となることを目指す。
なお、これに付随して、第三として、利用予定である一部医療機関作成資料は、その貴重さに鑑み研究と並行してアーカイブズ整備を行い、資料の長期保存措置を行うことも目的とする。日本の精神科入院がもつ一つの大きな特徴は、患者の同意に基づかない非自発的入院の多さ(2015年では約17万件)であり、おおよそそれは欧州諸国平均の15倍ほどで、現在入院患者の約半数を占めている。現行法においては、非自発的入院の大部分が精神保健福祉法第33条に規定される医療保護入院として行われており、そのほとんどは家族の同意によって「強制入院」が行われているのが実情である。