本年度は調査・研究を進めるなかで、診療録等に関わる法的な問題の整理を行うことが重要な検討課題であることが判明した。また医療アーカイブズにかかわる重要なステークホルダーである患者当事者らへの聞き取り調査を通じて、本研究との連携が始まった。概要は以下の通りである。
(1)全体の研究集会を3回実施した。第1回(2021年8月)は、外部の研究者2名を招き、知的障害者施設の文書管理の問題、診療録等の研究活用における倫理的懸念と患者・市民参画のあり方について議論を行った。第2回(同年12月)は、森本祥子が「国立大学における診療記録管理・保存体制について」、藤岡健太郎が「「公文書」としての九大診療録をめぐる問題」を報告した。これらにより、診療録は法的には公文書管理法の枠組みにあるものの、作成元の医師や医療機関では別制度を構築していることが確認され、法的に診療録の文書的性格を再検討すべきことやアーカイブズと医療関係者の認識の差を法的にどう整理するのかが検討課題として浮上した。第3回(2022年3月)は、久保田明子が「原爆被爆の医療記録と研究資料」を報告し、医学研究機関における文書管理・公開の現状および問題点について議論した。
(2)患者など当事者の意見を反映すべく、全国精神保健福祉会連合会(2021年12月)、全国手をつなぐ育成会連合会(同年12月)、日本障害者協議会(翌年1月)の有志に対し、団体の資料保存・管理・公開の状況、公文書館等への移管、そこでの公開の可能性や懸念などについて質問した。
(3)立命館大学生存学研究所などの共催シンポジウム「医療ヘルスケアアーカイブズの保存と利用に関わる諸課題と当事者参加」(2022年3月)を実施し、歴史研究者、アーキビスト、医師や行政関係者、上記(2)の当事者団体が参加し、医療アーカイブズの保存と公開の諸問題について議論を行った。