(1)声に対する聴覚誘発反応
a)正常者の声に対する感覚フィルタリング機構について
本研究にて、声に対しても非言語音と同様に、連発刺激によるP50m, N100mの振幅の抑制が認められ、社会生活のうえで重要な情報であるヒトの声に対しても感覚フィルタリング機構が存在することが示唆された。
b)統合失調症者の声に対する感覚フィルタリング機構について
統合失調症者17名、正常対照者17名の聴覚誘発反応を比較した。両側半球ともに、2発目の声に対するN100m、P50mの抑制度は統合失調症者で有意に小さいという結果が得られた。統合失調症者は声に対する聴覚抑制機構の障害があることが判明した。
c)感情障害者の声に対する感覚フィルタリング機構について
当該研究では感情障害者についても研究を行っている。双極性障害者16名の聴覚誘発反応を記録した。両側半球ともに、2発目の声に対するN100m、P50mの抑制度は双極性障害者で小さい傾向があるが、その障害は統合失調症者より軽度のようである。更に精神病症状を呈した双極性障害者は統合失調症と同様に感覚フィルタリング障害が認められるようである。
(2)顔認知時の後頭葉における脳血流変化-LAIRSを用いた研究-
後頭葉における脳血流の変化をNIRSで捉えることは困難であり、脳波による研究を行うことと方針を変更した。統合失調症者14名、正常対照者28名を対象として顔、家に対する視覚誘発反応を記録した。正常者では後側頭部の誘発反応(N170)は顔>家というパターンを示したが、統合失調症者ではそのパターンが失われていた。これは統合失調症者には比較的早期から顔認知に障害があることを示す結果であり、先行研究と一致した所見であった。