近年国際食料価格や為替水準が変動し,これらが輸入食料価格の変動を通じて,国民生活へ影響することが懸念されていることを踏まえて,産業連関分析の均衡価格モデルにより,為替及び輸入食料価格の変動リスクを分析した。分析の結果,第1に,リスクの発生頻度に関連して,海外依存度の高い食料品の輸入価格,また為替レートともに,過去に大きく変動し,今後も継続することが懸念される。第2に,リスクの影響度に関連して,為替,個々の品目の輸入価格の変動が,最終消費者物価に及ぼす影響は,おおむね限定的であると解される。しかし,例えば2008年のように,食料品,原油等の輸入価格が一斉に100%以上上昇するとともに,仮に円安等の悪条件が複合すると,消費生活に甚大な影響が及ぶ可能性は排除できない。第3に,為替,輸入価格の変動の影響の較差が部門ごとに大きい中で,フードシステム関連産業にとっては,長引くデフレ経済の下で,変動によるコスト増を完全に価格転嫁し辛いという経営リスクが上昇している可能性もあることを指摘した。特に,最後の論点に関しては,均衡価格モデルによる影響試算値を提示するに止まらず,2000年以降の小麦,大豆,とうもろこしの輸入価格の変化が,実際にそれぞれの川下産業部門の国内価格に及ぼした影響を,日本銀行企業物価指数(2010年基準)の輸入物価指数と企業物価指数を用いて過去のデータに基づいて検証した。その結果,おおむねタイムラグを持ちつつ,フードシステムの川下にいくに従って変動幅が圧縮されて価格伝達が進展したこと,部門によっては円滑に価格転嫁が進んだとは言いがたい部門も存在したことを確認した。