西本氏は,租税特別措置である中小企業の所得拡大促進税制の合理性の判断において検討を要する「政策目的達成のための租税特別措置の有効性」について,「給与の引き上げ」,「成長」の側面から所得拡大促進税制の果たす役割,および中小企業の所得拡大促進税制に期待される効果について明らかにした。また「租税特別措置による公平負担の侵害の程度」について,法人税法および租税特別措置法における中小企業の定義の課題および中小企業の法人税等の課題についての分析を行い,租税特別措置と租税公平主義の原則との関係における租税特別措置の「合理性」の判断について考察した。
第1章 中小企業の所得拡大促進税制における租税特別措置の合理性では,租税特別措置と租税公平主義の原則との関係における租税特別措置の「合理性」の判断について学説,税制調査会答申および判例を丁寧に検証,考察した。
第2章 中小企業の役割では,中小企業を定義するうえで用いられる基準について検討後,法人税法および租税特別措置法における中小企業の定義については税制において要求される「租税法律主義の原則」および「租税公平主義の原則」の両側面から考察する必要があることを指摘した。
第3章 中小企業の法人税等についての実証分析では,法人税法および租税特別措置法の中小企業向け税制上の特例措置を整理し,中小企業の営業収入金額は企業全体の約6割を占めているにもかかわらず中小企業の申告所得金額は企業全体の約4割超を占めるにすぎないことを明らかにした。
第4章 中小企業の所得拡大促進税制についての実証分析では,中小企業の所得拡大促進税制の適用状況および傾向,中小企業の付加価値額ひいては労働生産性の向上の観点から,所得拡大促進税制の効果を明らかにした。
第5章 大分県で実際に活躍している中小企業のうち,中小企業の所得拡大促進税制の適用を受けた中小企業10社(者)のデータを用いて,中小企業の給与引き上げの効果と労働生産性との関係および中小企業の給与引き上げの効果と営業利益率との関係について分析した。
第6章 結論では,法人税法および租税特別措置法における,あるべき中小企業の定義を明確にし,給与の引き上げによる従業者のモチベーションの向上が中小企業の労働生産性の伸び率および中小企業の営業利益成長率を有意に向上させる効果があることを実証研究で明らかにした。