本論文は,世界中で認められている新規株式公開(Initial Public Offerings:IPOs)の短期・長期の2つのパフォーマンス,すなわち①アンダープライシング(初値が公開価格を大きく上回ることにより,短期間に高い収益率が生じるため,公開価格が過小評価されていること)と②株価の長期低迷(公開初日に高い初値で引けた後,株価が長期にわたり低迷すること)について,マレーシア証券取引所(Malaysian Stock Exchange:MSE)に上場しているIPO企業を分析し,この2つの事象を検証するとともに,その発生要因を明らかにしたものである。
第1章のイントロダクションでは,マレーシアにおける証券市場の現状を述べ,そこにはイスラム法に準拠した企業(イスラム法準拠企業)とイスラム教に準拠していない企業(非イスラム法準拠企業)が混在しており,その証券市場でIPO関連の法律の推移を述べるとともに,IPO企業数の推移を概略している。第2章では,世界のアンダープライシングとアンダーパフォーマンスとの先行研究を丹念に調べ,現象の発生だけではなく,その原因も整理している。第3章では第2章で議論された先行研究をもとに,本研究で用いられる変数の定義とデータの説明を行っている。第4章では,実証分析期間2000年から2011年におけるマレーシア証券取引所でIPOを行った企業をイスラム法適用企業(419社)と非イスラム法適用企業(51社)とに分け,①アンダープライシングについて検討を行い,イスラム法適用企業と非イスラム法適用企業がそれぞれ28.94%と27.18%と高いことを明らかにした。産業別では,重工業,物流,機械,そして農業で非イスラム法準拠企業が高いアンダープライシング生じていることが分かった。その要因の1つが,アンダーライター(証券会社)の名声と考えたが,優位な分析結果を導き出すことはできなかった。次に②株価の長期低迷については,2006年から2010年にIPOを行った企業の3年間の株価を分析し,累積異常収益率の推移を検討したが,アメリカや日本と異なり,発生を確認できなかった。これは,検証期間が2006年から2010年と比較的短期間であり,データも少ないことから,十分に分析できなかったためと考えられる。第5章での結論では,2000年-2011年のマレーシア証券市場においてIPOを行った企業のアンダープライシングの現象が確認された。