本研究では、近代期の清酒醸造業において、清酒醸造業固有の帳簿から複式簿記(西洋式簿記)へと転換した過程について、実務的な側面から考察している。会
計史分野において、商法や所得税法の制定をきっかけに、日本固有の和式帳合から複式簿記への転換過程を考察した研究が現在も行われている。本研究で対象と
している清酒醸造業は中世から続く伝統産業であるため、その過程を考察するのに適している。また、当時の清酒醸造業は所得税よりも前から酒税を納め、その
酒税が日本の税収割合1位となる重要な存在であった。しかし、どのような帳簿を用いて酒税が算定されていたのかの言及はない。江戸時代から昭和初期までの
灘(兵庫県)酒造家(以下、柴田家)の一次史料を検討し、酒造経営の管理や酒税および所得税の申告に用いられた帳簿から複式簿記の導入過程を実務的な視点
から明らかにする。