待機児童の多さが社会問題となって久しく、早急な解消が望まれているが、その問題の背景には慢性的な保育士不足と早期離職率の高さという大きな2つの課題がある。特に新人保育士では離職率が高くなる傾向がみられる(厚生労働省第3回保育士等確保対策検討会「保育士等に関する関係資料」)。しかしながら、人員的余裕の無さや研修ノウハウが無いために、新人保育士を対象とした研修機会を充分に確保できていないの現状がある。また保育士としても、慢性的な保育士不足は精神的・身体的な疲弊につながり、キャリアに関する学習への意欲が低下していることが懸念される。不十分なキャリア形成では、将来に対する見通しや自身の職能的な成長に対する自己効力感が得られず、技能や人間関係形成についても不安を抱えることが示唆される。その結果、早期離職につながり、さらにその離職につながるイメージのために新任者の採用がますます困難になるという悪循環に陥っていると考えられる。
本研究では、キャリアに関する学びの動機づけを高めるとともに、保育士としての自身の仕事への肯定感やモチベーションの向上を図り、最終的には早期離職防止を目的とした新人保育士研修プログラムの開発を行う。開発する研修プログラムはコロナ禍ということをふまえ、対面式とリモート(遠隔)式のハイブリット式を採用する。開発した研修プログラムについては、事前・事後に量的・質的調査を実施しその効果を検証する。
本研修プログラムの確立は新人保育士のキャリア形成に役立つだけでなく、本プログラムをベースに、保育実践能力に応じた研修内容を設定する「ラダー教育プログラム」の開発を視野に入れている。ラダーは能力開発・評価システムの1つであり、保育士の能力段階を確認しながら自己研鑽や人材育成を目指すことができるため、新人保育士に限らず、すべての保育士に生涯学習の機会を提供できると考える。